BCIT New Media Design & Web Development - コースレビュー
(BCIT Burnaby Campus)
British Columbia Institute of Technology(通称BCIT)のNew Media Design & Web Developmentレビュー。 こちらは併設の語学コース(ISEP)ではなくCertificateが発行される1年間の本科プログラム。 昔書いたその他の情報は以下。
*自分のバックグラウンドとして
- 日本で3年半SE(PMっぽい立場) (詳細はこちら)
- Web業界ではなくSI業界出身
- インフラシステム担当してたのでデザインの知識はない
- 留学経験はないが英語は受験時代から得意(外語大とか受験してた)
- Developer志望
のためそれなりに意見に偏りがあると思います。
BCITとは
日本語の情報を探すと州立工科大学と出てくるが、英語名でInstituteとなっているように正確には大学では無い。日本と制度が異なるため置き換えるのは難しいが、専門学校と大学が混ざったような州立の教育機関というイメージ。実際、修了認定のcertificateや学士(bachelor)が取得できるコースからパートタイムとして一科目単位で受けられるプログラムまで内容は様々。
州立として名が通っており、
- 仕事を探す上で不利にはならない
- 8ヵ月以上のコースを修了すると同期間以上のOpen Work Permitが発行される
点でバンクーバーでの就労、永住を目指す留学生にも人気。
生徒
生徒は高校出たばかりの人から何年も働いた経験がある人まで様々。日本のように採用の際に年齢を見られないため(むしろ年齢で判断するのは違法)キャリアチェンジやスキルの幅を広げる目的でくる人も多い。UBCやSFUといったバンクーバーでトップレベルの大学を卒業後に、理論ではなく実践的な内容を学びたいと考え入学する人もちらほら。ただカナダ人は留学生よりも圧倒的に学費が安いため何となくやりたいことがないから入学する人もそれなりにいる。
*コースによっては入学条件として関連分野における就労経験やエッセイの提出が求められる場合も。
New Media Design & Web Developmentコース
概要
全体的な方針としてはWeb業界で必要なスキルを広く身に付ける、というもので1年間を4学期にわけ基本から応用へ進んで行く。入学要件もIELTS6.5のため日本人でも英語が得意な人であればそこまで難しいものではないと思う。*
もともとは2年間のdiplomaコースから教養科目を省き、最低限必要な科目を1年間用に詰め込んだintensive program。学期間の休みが1週間しかないため(年末年始のみ2週間)授業数自体は他の大学の2年間コースと大きく変わらず、課題も多いことから忙しくて大変とよく言われる。
最終学期の後半1ヵ月弱はPracticum(インターンの簡易版のようなもの)となるため授業はない。
*問題内容が異なるので一概には言えないがTOEICで800後半を取るのが苦でなければ独学でも取得できるのでは。
授業
ざっくりとした授業区分として
- デザイン(理論からAdobeソフトウェアの基本、応用)
- プログラミング(HTML/CSS/JavaScriptからPHP)
- ビジネス(Information ArchitectureやWeb Marketing等)
- その他New Media関連(動画編集やMediaにおけるトレンド概論、関連法規など)
となる。
クラス
1クラス20人程度でBurnabyとDowntownキャンパスでそれぞれ開講される。違いは授業によって講師が異なるぐらいでキャンパス間の交流は特にない。日本人の割合はクラスに1,2人いるかどうか。それでも数年前は1人もいない場合が多かったらしいので徐々に増えてきているとのこと。
生徒のバックグラウンドとしては上記分野の経験者+未経験者(高校出たて/キャリアチェンジ目的)となるが、成績上位かつその後にさくっと就職が決まっているのは当然ながら経験者がほとんど。
ちなみに大半がカナダ人、一部留学生であることが多い。稀にISEPで入学条件をクリアした人が集中して留学生比率が増える時期もある。英語力の面ではIELTSクリアした人 > ISEPで入学条件をクリアした人、という印象。
課題と成績
ペーパーテストもあるが基本的には制作系の課題が成績の大半を占める(理論系の授業除く)。制作といってもこのコースはアーティストを育成したいわけではないため課題の要件に沿っていれば多少手抜きであっても授業を落とすことは無い。
課題の要件を満たした後はどこまで制作物に対して自分でこだわるかとなる。講師からのフィードバックはそこまで多くないが、個人的に聞きに行けば詳細を教えてくれる。
Practicumやその後の就職活動で提示するPortfolioの作品は授業の課題を使うことになるため、課題をなんとなくこなして後から困る人も多い。
講師
BCIT専任講師をやっている人は小数で、他の学校でも教えていたり当該分野で仕事をしている人が大半。授業の細かな内容は講師の裁量に委ねられている場合が多く、実際の現場経験がもとになるため理論だけで使えない授業にはなりにくい。とはいえ、授業の質=講師の質となってしまいやすいので外れの講師に当たるとその分野の経験がない人は後が大変になることも。
個人的に聞いた話ではあるが一度採用され複数授業を持ってしまうとなかなか解雇されにくいらしい。州立機関で手続きも多く、採用に半年程度かかりその期間の代わりがいないため。
*ここで言う講師の質とは人間的にもスキル的にも全く駄目というわけではなく、
- プログラマー出身のためデザイナーへの教え方が上手くない (情報系の生徒には評判よい)
- 授業は体系化されていないが話は面白い/課題が少ない (手抜きしたい生徒には評判よい)
のような場合が多い。全く駄目という人は流石に採用されない…はず。
第一ターム
1授業3時間程度で午前/午後にそれぞれ1コマが基本となる。最初の学期はデザインの割合が多い。
- デザイン: デザイン基礎理論、グラフィックデザイン、色補正、Photoshop
- プログラミング(というかコーディング): HTML/CSS基礎
- ビジネス: Information Architecture
デザイン経験が全くなかったこと及びネイティブと同等の環境で授業を受けるのが初めてだったため最初は着いて行くのにそれなりに苦労した。ただ、HTML/CSSは基礎的すぎたのでクラスメイトに教えたりする余裕もあった。
第二ターム
徐々にコーディングの時間が増えてくる。最初のタームでHTML/CSS基礎を真面目にやっていなかった人はかなり辛そうにしていた印象がある。
- デザイン: グラフィックデザイン、Illustrator、Interface Design
- プログラミング(というかコーディング): HTML/CSS(Responsive Designなど)、JavaScript
- ビジネス: Information Architecture応用
- その他: 動画音声編集(Adobe Premiere/Audition)
このタームで一番時間がかかるのが動画音声編集。講師から与えられる要件に沿って3作品作る必要がありキャンパス内のラボで徹夜作業をしたのも今ではいい思い出。
一部の授業では講師の教え方が下手すぎて何がしたいのかよく分からないものも。これは別キャンパスや違う時期に入学した人からも同じ話を聞いたので、問題にはなっているが代わりもいない状況らしい。気のいいおじさんではあるが…
第三ターム
このタームからフリーランスとして独立するために必要な知識、を教える授業の割合が大きくなる
- デザイン: Photoshop/Illustrator応用
- プログラミング: HTML/CSS/JavaScript、PHP基礎
- ビジネス: Project Management
- その他: VFX(After Effects)、メディア関連法規
- Portfolio制作
Portfolioの授業は特に何かを教えてもらうわけではなく、講師と制作方針の相談をしながら後は黙々とPortfolio作りの時間となる。この段階になって自分でウェブサイトを作るスキルがないと気付いて困る人がちらほら出てくる。
第四ターム
最終タームは制作の時間が一気に減り、理論的な内容が増える。後半1ヵ月弱がPracticumのため授業自体は消化試合という印象が強い。
- プログラミング: PHP、WordPress Theme作成
- ビジネス: Web Marketing、起業論?
- その他: キャリア準備(レジェメ、カバーレターの書き方など)、メディアとトレンド
- Portfolio制作
- Practicum
Practicumについては授業とはほぼ独立したもののため、詳細は別項目とする。
Practicum
144時間程度クライアントに対して業務に従事することがpassするのための要件となる。インターンより簡易なものでPracticumと呼ばれるが違いはよく分からず。
時間
passするための最低時間は決まっているが、上限は特にない。ただ、コース修了日は決まっているので基本的には1ヵ月弱となる。無給が前提ではあるがビザ的に問題が無ければ給与を貰ってもいいとのこと。
Practicum先探し
基本的には自分でレジェメ、カバーレターを送って探すことになり学校のサポートはない。ただ、会社でインターンとして採用される必要はなく、フリーランスとして個人で仕事をもらってもpassの条件は満たせる。そのため現地にコネの多いカナダ人は知り合いからの依頼を受けてフリーランスとして従事する傾向にある。
卒業後に採用される/Linkedinのリコメンドを貰える等の可能性を考えれば企業でインターンとして従事するのがベストではある。特にBCITの授業の一環として行われるため、無給で従事することが合法となり、とりあえずPracticumの生徒として採用されやすい。とはいえ、全くスキルの足りない生徒は邪魔なだけなのでいくら無給でも採用はされない。実際に企業でpracticumに従事したのはクラスの1/3程度であった。
総評
コース
当該分野での経験がない人が一年間過ごすにはコストパフォーマンスの悪くないコースであったと思う。授業についても完全に満足とはいかないまでも、バンクーバーでは一番質が保たれていると聞くことも多く、学費についても他の学校と比較しても高くはない。卒業後のビザ発行を考えるとベストな選択肢であろう。
気になる点としては、他学校との競争から学校側としてもより多くの生徒を確保したいとかで、生徒に甘くなってきているところ。遅刻/欠席が一定を超えるとpassできない規則にも関わらずその通りに運用されていないことに不満を持っている層もそれなりにいた(特に成績上位の層)。もう少し厳しくして生徒の質は担保すべきだと思う。
また、外れの講師にあたった場合どうするか。プログラム責任者に直訴して講師を変えてもらう、補講を行ってもらう等は行われるもののそこまでうまくいってない模様。こればかりは運と相性もあるから難しいか…
就職率および外部環境
卒業後3ヵ月以内にdesign/development/media等に関係する企業に就職したのはクラス20人中5人程度で全員何かしらバックグラウンドがあった人。 BCITは就職率が高いとよく言われるが当該コースに限って言うと当てはまらないと思う。
New Media Design & Web Development以外の選択肢だと
- BCIT: Diploma取得ができるコース
- Digital Design and Development: New Mediaから編入する人もたまにいる2年コース
- Computer Systems Technology: Computer Science系の2年コースでデザインはやらない1
- その他 (BCITのようにポスグラビザは発行されない)
- Vancouver Institute of Media Arts: 私立。知り合いに話を聞く限りカリキュラムはいいと思う。
- Lighthouse Labs: BootCamp。最近Lighthouse Labs出身の人に会うことが多くカリキュラムもよさそう。
- Code Core: 上記同様BootCamp。
等がありBCIT内にもBCIT外にも似たコンセプトのコースは多数あるため競争は厳しい。とりあえずBCIT出れば何とかなると勘違いしている人も時々いるので注意。
未経験者について
Design/Development/Businessどれの経験もない場合はこのコースで教えられることだけをしていても就職できる可能性は低いように感じる。あくまで土台となる基本知識を教えるコースなので授業の課題だけではなく+αとして自分の進みたい分野に必要とされていることを学ぶことは必須。”課題ばかりやってたらクリエイティビティが育たない”等の文句を言っていた人もいたが、そのような勘違いした人にならない/影響されないためにもメンター的な人を見つけた方がいいのでは。
*Practicum詳細については別記事のこちらを。